マーク・ザッカーバーグ独占インタビュー Facebookライブ動画が創る未来

    YouTubeやテレビ局の牙城に攻め込む?

    Facebookは4月6日、誰もが動画を生中継できるサービス「ライブ動画」機能を充実させると発表した。特定グループに限定した配信ができ、リアルタイムで「いいね」アイコンが流れる。ライブ感はこれまで、Facebookが遅れをとっていた分野。SNSの巨人の新たな一歩は、動画配信サービスやテレビなど既存勢力を業界をまたいで巻き込み、ゲームチェンジャーとなるか。

    Facebookがライブ動画を立ち上げたのは昨年8月。ワンタップで生中継できるシンプルなものだった。当初は芸能人や報道機関だけに限られていたが、昨年12月に試験的に対象を広げ、今年1月から段階的に世界中へ拡大している。

    しかし、そのビジョンが固まったのは今年2月。マーク・ザッカーバーグCEOが育児休暇から復帰後に最初に参加した「M会議」だった。

    M会議とは、世界中の開発から営業まで全マネージメント層が集まる会議だ。

    M会議に参加したクリス・コックスCPO(最高製品責任者)はこう振り返る。「Facebookが何かを展開するとき、特別な何かの始まりを感じることがある。今回は全員がそれを感じたんだ」

    会議に出席したプロダクトマネージメントの責任者フィジ・シモは、こんな表現をしてくれた。「みんなにとって『アハ体験』でした。ザックはこんな感じだったんです。『ちょっと待って。もしこれが本当にすごいことなら、なんでもっとリソースをつぎ込まないんだ?』」

    フェイスブックはこれまでも動画に注力してきた。だが、YouTubeで見る動画と大した違いはなかった。だが、ライブ動画は、これまでにない可能性を持っている。

    ザッカーバーグは発表の前日、BuzzFeed Newsの電話インタビューに答えた。「わたしたちは大きな決断を下し、ライブ動画に力点を移すことにした。出現しつつある新しいフォーマットだからだ。過去5年、10年、ネット上にあった動画とは違う」

    M会議を終えた後、ザッカーバーグは長文のEメールを書いた。これがゴーサインだった。

    ビデオエンジニアリングの責任者マハー・サバはこう説明する。「エンジニアは、こんな長くて詳細なメールは仕様書として受け取るものなんだ」

    サバとシモが取り組むべきことは大きく二つあった。一つは、ユーザーが触れるプロダクト系の課題。もう一つは、演算能力やネットワーク、ストレージといったインフラ系の課題だ。

    不可能ではないが、実現の壁は高かった。サバはこう振り返る。「ザックのメールを読んで、映画『ジョーズ』を思い出したよ。でかいボートが必要だってね」

    初期のライブ動画チームは十数人しかいなかった。だが、M会議で決まったビジョンを展開するには、100人以上のエンジニアが必要だった。

    「会議は木曜日でした。月曜日には、私とサバは150人のエンジニアを前に立っていたんです」とシモは話す。

    コックス、サバ、シモは、プロジェクトへの参加者を集め始めた。採用して研修を終えたばかりのエンジニアたちに、実際にライブ動画使って見せて、魅力をアピールした。「Facebookでは、Facebookを使って、Facebookをつくっているんだ」とサバ。

    2〜3月、Facebookはライブ動画に取り憑かれたようになった。「10年か11年前、会社全体がこんな感じだったんだ。みんなが同時に一つのことに取り組んで」とコックスは振り返る。彼は2005年からFacebookで働く。

    「みんなが参加したがるんだ。みんなが一緒に同じことに取り組むとき、集中力とエネルギーが高まる感じだね」

    課題は山積みだった。リアルタイムの「リアクション」をどう表示するか。動画フィルター、ライブブロードキャストの場所を示すマップ、友達の誰がライブ中かを示すチャンネルガイドのようなもの……。

    例えば、数万のスマホが同時にブロードキャストしている状態を想像してみてほしい。それを可能にするネットワークとストレージが必要となる。

    動画への変換も難しい。iPhoneならいいが、Android携帯だと動画のエンコード・デコード技術がバラバラ。それでも、どんな携帯で撮られたライブ動画でも処理し、どんな携帯でも見られるように送信しなくてはならない。

    しかも、即座に、リアルタイムで。演算能力やエンジニアの独創性が求められる。そして、それこそがFacebookが進化してきた道だった。

    ザッカーバーグはこう話す。「この巨大なテクノロジーのプラットフォームによって、ユーザーは、リアルタイムで、最もパーソナルで感情的、ナマ、理屈抜きの方法でコミュニケーションをとりたいようにとれるようになる」

    ライブ動画の可能性は計り知れない。ユーザーは簡単に動画コンテンツを作ることができるようになる。するとFacebookに流れるコンテンツが増えるわけだ。

    Twitterに遅れを取っていたライブ性も強化できる。ユーチューバーのような存在がFacebookにも出現する。

    テレビの地方局やケーブルテレビが放映しているような映像がFacebookで簡単に見られるようになるかもしれない。(Facebookはメディア企業とも協業し、プロの動画がフィードに流れるようにもしている。Re/code が報道したように、Facebookがお金を払ってライブ動画の制作を促すパートナー企業にBuzzFeedも含まれる)

    足元で動画の重要性は増している。ザッカーバーグは断言する。「動画の新黄金時代に入っている。今後5年を早送りしてみたら、ユーザーがFacebookで見るもの、毎日シェアするもののほとんどが動画だったとしても驚かないね」

    その「今後5年間」。Facebookがライブ動画で取り込もうとする層こそがビジネス戦略上、鍵になる。それは、若者たちだ。

    ザッカーバーグは打ち明ける。「わたしたちに本当に驚きだったのは、ライブ動画は有名人向けなだけじゃなかったということ。それはユーザーが日々シェアしたいと思う、新しい、ナマで伝える方法だった。特に若者や10代がそうしたがっている」

    最近のソーシャルメディアのトレンドの一つは、高度に作り込まれたコンテンツ離れ。しかも動画で、このトレンドは顕著だ。

    加工せず、フィルターもかけられていない人々の生活を覗けるソーシャルアプリが人気だ。昨年から今年にかけて、Periscope、Meerkat、Peach、Shorts、Bemeといったアプリが次々と出現した。そしてそれはもちろん、ザッカーバーグの頭にもあったわけだ。

    「ライブ動画はライブなだけに、すごいプレッシャーを感じると思うでしょう。生中継で自分自身をさらすのは勇気がいるから。でも、正反対のことが起きていた」

    「ライブだから、編成できない。そのために、ユーザーはありのままでいられる。事前に完璧に準備することなんてできない。ちょっと直感とは逆だけど、加工していない、感情むき出しのコンテンツをシェアするには最高の媒体となるんだ」

    だからこそ、ライブ動画ではタイムラグをできるだけ短くするように工夫がなされた。動画へのコメントがほぼ同時に表示され、中継しているユーザーが反応できる。

    ユーザーは特定のイベントやグループ向けにライブ動画を配信できるようになる。ユーザーがありのまま配信しやすくする。視聴できる人たちが多く、多種多様すぎると、そうは振舞いにくい。ユーザーが普段通りに動画に登場することがキモだ。

    Facebook本社で、シモはパソコンを開き、新しいライブ動画の機能を見せてくれた。ライブマップがあり、世界のどこでライブ動画が発信されているかが示されていた。

    円が表示されていて、その大きさが見ている人の数の多さを表していた。シモがアフリカにあった小さな円をクリックすると、アンゴラで物憂げにカメラをのぞく二人がいた。ただただ、ブラブラしているようだった。

    奇妙なことだが、その動画には何かひきつけられるものがあった。

    誰がいまライブ動画を配信しているか知らせる機能もつく。ユーザーがフォローしている人やページだけではない。トピック単位でもフォローできる。例えば、スポーツなどだ。検索機能も加わる。

    世界で注目が集まっていたり、興味のあるトピックに関連したりするライブ動画を勧める機能もある。

    シモはヒラリー・クリントンをフォローしていて、取材時はちょうど集会をライブ動画で配信していた。

    クリントンが話している間、「いいね」アイコンがスクリーンに流れ続けた。銃支持団体への反対に触れると、「すごいね」アイコンが流れ、怒った顔の「ひどいね」が続いた。

    これまでは、アイコンは流れず、動画全体へのリアクションしか示せなかった。

    フォローしている人からのリアクションは、プロフィール写真も見えるようになる。さらに、保存されたライブ動画を見るときも、こうしたアイコンの流れは再現される。

    すでに気づいたひともいるかもしれない。そう、これらの機能はTwitterの動画アプリPeriscopeに似通っている。

    Periscopeもライブ配信している人のマップがあり、反応するアイコンが流れる。(こちらは右から左ではなく、下から上だが)。こちらも、後で再生してもアイコンの流れは再現される。

    Periscopeなどのライブ動画アプリとFacebookの違いについて聞くと、ザッカーバーグはきっぱり答えた。違いは「視聴者」だ。

    「公人なら、視聴者は、これまでにないものとなる。(米テレビ司会者の)ジミー・ファロンがライブをしようと思ったとき、出演するテレビを見てくれる人たちと似たような人たちに届けられないなら、時間を割く価値はない」とザッカーバーグ。ファロンのような芸能人にとっては当然、見てくれる人の数は重要だろう。

    一方、普通の人にとってもそうかもしれない。ザッカーバーグは「ただ友達とシェアしたいだけでも、友達に見てもらいやすくなる」と話す。

    ヒラリー・クリントンのハーレムでの演説は、後から見た人も含め24万人以上が視聴した。こうした数は、毎日あるとはいわなくても、全くまれなわけではない。これはFacebookがニュースフィードでライブ動画を優先的に表示しているためでもある。

    ライブ動画は、(BuzzFeedも含め)多くのパブリッシャーが先を争って実験し、フォロワーを獲得しようと競う。

    Facebookはライブ動画を見てもらう新たなユーザーを必要としていない。すでに、そこにいるのだ。

    すでにライブ動画の人気ユーザーが誕生している。タトゥーアーティストのLiz Cookは100万以上のフォロワーを集めた。Esther the Wonder Pigは、Pigの名の通りブタだ。

    ライブ動画ではちょっと変わったものが流行るようだ。(BuzzFeedで人気が高かったのは共和党の討論会の最中ずっとプチプチをつぶし続ける人の手元をアップで写した動画。75万人近くが見た)

    Facebookが向かう先。そこはテレビ局が独占してきた市場だ。

    Facebookはすでに、木曜夜のアメフト中継の権利獲得に乗り出した。(これはTwitterが勝ったが)。有名人に代金を支払って、ライブ動画に登場してもらう交渉をしているとも報道されている。

    もしテレビとFacebookライブ動画で、視聴者の違いがなくなるなら、テレビ中継に投資する必要性は消える。

    ザッカーバーグにこうした質問をぶつけたが、はぐらかされた。「両方ともやるんじゃないかな。ポイントはどちらかを選択することじゃなくって、Facebookはユーザーに新しいツールを提供しているってことなんだ」

    いまはそうかもしれない。ただ、長期間そのままだとは見通し難い。余暇時間は限られ、サービスは選ばれないと生き残れない。

    たしかに、Facebookのライブ動画によって、テレビの生放送が消滅するわけではないだろう。ただ、前述したクリス・コックスCPOの言葉は重い。

    「何かの始まりを感じる」